四阪島製錬所

中年男性の優雅な日々

   

歳を重ねると、食べ物の好みが味付けの薄いものへと変化していくのと同じように、欲望や趣味も淡白になるといいますか、わびさびだったり、渋み、枯山水の境地を目指すような方向性に変化していくようです。

杉町憲一も、若いころはわからなかった私小説の深みや、退屈なだけに思われた日本画や寺社仏閣の魅力、骨董を収集して愛でる感覚などがとつぜんわかるようになり、自分自身の趣味の変化と広がりに日々驚くばかり。

若いうちにもう楽しいことはやりつくした、なんて思っていたのはまるで見当違いで、杉町憲一は、いま、歳を重ねたゆえに楽しみに目覚めた新たな趣味に没入して目が回るような忙しい毎日です。

余生の思わぬご褒美

年配の男性が好きな若い女性が多い、という話も、実際に年齢を重ねてみるまでは、にわかに信じられなかったのですけれども、本当でした。

父性を求めている女性もいるし、血気盛んな若い人に疲れてしまっていて、年配の男性の落ち着いた雰囲気が好きになるという女性は、杉町憲一が思っているよりもずっと多かったのです。

杉町憲一の場合は、加齢によって自然と精力が衰えてしまったから、若い女性とお話するだけで十分楽しくて、それ以上の欲求が出てこないのですが、それも女性にとってはいいのかもしれません。

奥手な性格で女性にあまり慣れていない人生でしたが、逆にウブでかわいいと思われることがあり、杉町憲一としては、余生の入り口の、嬉しい誤算といったところでしょうか。

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